2015年05月17日

我らに天佑なし

巡洋艦とは何か
制海権とは何か
海軍とは何か
軍隊とは何か

佐藤大輔は海洋国家大好きおじさんだけど,中でも高速戦艦とか巡洋艦フェチだよな.意外と戦艦についてのフェティシズムは感じない.そのせいか,俺もその手のフネが大好きだ.
海軍の出番が少ない皇国の守護者にあってもその本懐を遺憾なく発揮している.
サーチ・アンド・デストロイ!

時代としては木造の戦列艦から甲鉄艦に切り替わるあたり,だろうか.ただし帆船ではなく石炭で動いている.駆逐艦がまともな外洋航行能力を持たなかった時代,従って最小の戦闘単位が乙巡,まあ軽巡だった時代.佐藤大輔のことだからどれかの海戦に元ネタがあると思われるが,不明.バレンツ海海戦が状況がやや近いか.
重巡4隻軽巡3隻の敵通商破壊艦隊を見つけた重巡1隻軽巡3隻の艦隊.自軍は練度に劣り上回るは艦齢のみ.しかし味方の巡洋戦艦,あるいは旧式戦艦の到着を待ってはいられない.こんな時にどういう対応を取るかがやはりその国の海軍の姿勢そのものを代表するだろう.<皇国>は海洋国家であるからして,もちろん自軍の全滅を賭して敵に損害を与え,通商破壊を阻止する作戦に出る.そして自らの死と引き換えに作戦に成功する.男子一生の快事と言うべきか.

また,タイトルが実に良い.
「我らに天佑なし.敵戦力は絶対的優位にありと認む.されど戦隊はただ今これより断然これを攻撃す.我に続け」が作中の表現.
この辺りは佐藤大輔の一貫したテーマだ.「征途」に象徴的な一節がある.

「艦隊戦闘とは,最大限の注意を払った上で慎重に決行されねばならぬ.決して,偶然の結果に大きな期待を賭け,敢えて危険を犯して実施されるものであってはならない」J.R.ジェリコー,ユトランド沖海戦の英軍の司令長官
「天佑を確信し全軍突撃せよ」レイテでの栗田ターンの直後,聯合艦隊から第一遊撃部隊への命令

ここに二つのテーマがある.
まず,天佑に頼らずとも勝つ.仮に栗田が反転しなくても,戦術的には勝ったかもしれないが戦略的にはどうだか怪しい.架空戦記であれば「もし栗田が反転しなかったら」ではなく,反転しない状況を作り出し,反転すれば勝てるという状況を作り出すのだということ.何が天佑だ,という悲鳴のような一言は大井篤めいている.
そして,天佑が無く戦術的には負けるとしても戦略的な勝利を引き寄せる.
犠牲心の発露それ自体も美しい.しかし戦略的に意味のない犬死には御免こうむる.であるならば,軍人たる矜持が発揮されるのは自らの死によって戦略目標の達成が見込まれる時であると.

佐藤大輔の一連の短編の中でも特に鋭利な一本.
posted by terarorz at 23:25| Comment(1) | TrackBack(0) | 本とか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
たぶんコロネル沖海戦
Posted by at 2015年06月07日 22:56
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